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諜報機関に支配されるロシアの実態、中公新書『諜報国家ロシア』発刊

 


 これまでほとんど語られることのなかったロシアの諜報国家としての一面を掘り下げ、ロシアのウクライナ侵攻の裏に何があるのかも探った『諜報国家ロシア』が中公新書から発刊された。著者はソ連・ロシアのインテリジェント(諜報)活動を研究する保坂三四郎氏で、副題は「ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」。

   本文は6章と終章で構成。第1章はKGBの歴史、組織、要員。「KGBを警察やスパイ期間程度に捉えているとしたら、それは間違いだ。KGBは国家と社会にに広く浸透する『国家の中の国家』と言われる存在だからだ。ロシアのFSBは、KGBをほぼそのまま踏襲したため、それを理解することは、現代ロシアの体制や思想を理解する上でも不可欠」。第2章は、ソ連崩壊後もKGBが事実上存続したかを考える。第3章は、現在も使われるKGBの基本的な戦術・手法を紹介。第4章は、メディアと政治技術。第5章は、共産主義に代わるチェキスト(秘密警察職員)の世界観。第6章はロシア・ウクライナ戦争、終章は全面侵攻後のロシア。

 第6章では、対ウクライナ偽情報作戦の一員として専門家会議に参加していたカザコフという自称政治学者を取り上げ、元外交官で評論家の佐藤優が同氏を友人として信頼を寄せていると指摘。そして、この友人から提供される情報をもとに日本の複数のメディアで、ウクライナ政府にネオナチや反ユダヤ主義者がいるとして、日本政府のウクライナへの支援を牽制。その一方で、2014年に予定されていたプーチンの訪日については米国の意見に左右されることなく、実現されるべきだと主張した。「佐藤は、クレムリンから定期的に日本の政治家やメディア向けのテーマ集を受け取っている」と、毎日新聞に書いているという。

 中央公論の「Web中公新書」では、著者の保坂三四郎氏のインタビューを掲載している。その冒頭部分は次の通り。

 ――本書は、KGBとFSBの歴史や思想、工作の手法が事細かに描かれています。保坂さんは、そもそもなぜロシアのインテリジェンス研究を始めようと思ったのでしょうか。

 私はもともと、現代のウクライナ人の歴史的記憶などを研究しており、実はつい数年前まで、KGBどころかFSBにもそれほど関心がなく、まさかインテリジェンス研究を手掛けるとは思ってもいませんでした。
 ところが2016年に、ハッカーがリークしたロシア大統領補佐官ウラジスラフ・スルコフの大量のメール(いわゆる「スルコフ・リークス」)を読んで、その工作に衝撃を受けたのです。スルコフとは、プーチンの命を受けて2014年のロシア・ウクライナ戦争につながる対ウクライナ工作を2013年から統括していた人物です。
 そしてそのメールからは、スルコフの下で実に多彩な肩書の人物がウクライナへの工作活動に参加していることがわかりました。例えば慈善活動家や、大学教授、記者、歴史家、ブロガー、学者、聖職者、スポーツ関係者などです。スルコフは軍諜報機関の出身者ですが、その手法はKGB、FSBと同じと言っていいでしょう。
 ウクライナはかつてソ連邦の一部だったので、旧KGB支部の文書がそのまま残されていました。ウクライナは2014年のユーロマイダン革命後、その文書をアーカイブとして全面公開しました。私はスルコフ・リークスの衝撃から、ロシアの工作の源流を探るべく、そのKGB文書にあたり始めたのです。
 文書を読んでいるうちに、ソ連時代の工作のアプローチや手法が、現代ロシアにほぼそのまま引き継がれていることがわかりました。そして、KGBによるソ連社会への浸透は私が想像していたレベルをはるかに超えており、我々は実は30年前に崩壊したソ連という国家についてほとんど何も知らないのだ、ということを痛感したのです。
 というのも、欧米の研究者はソ連共産党やソ連軍の仕組みについてはよく知っていましたが、党の政治機関として社会全体に浸透し、軍や警察ですらも監視対象に置いていたKGBについては、まともな研究が行われてなかったからです。現代ロシアのFSBについても同じことが言えるでしょう。情報機関という大きな存在を考慮しないと、我々のロシア理解は偏ったものになることを、この時に認識しました。


 

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