『俳句が伝える戦時下のロシア―ロシアの市民、8人へのインタビュー』が3月10日、現代書館から発刊された。NHK ETV特集で放映した「戦禍の中のHAIKU」から、ロシアで暮らす8人の俳人へのインタビューと俳句を書籍化したもので、 番組で一部放映したインタビューの詳細な内容や未放映の俳句も取り上げている。編訳者はNHKディレクター馬場朝子(ともこ)氏。判型四六判、ソフト上製224ページで、定価2000円+税。
現代書館による紹介文では、「ロシアによるウクライナへの突然の軍事侵攻から、2月24日で1年になります。軍事侵攻、言論統制、他国からの制裁、予備役の動員……、激化していく戦争の渦中で、ロシアに暮らす人たちは何を思い、どのように暮らしているのか、そしてこの「戦争」をどう見ているのか」として、次のように記載している。「本書は、2022年11月19日にNHK ETV特集で放映された『戦禍の中のHAIKU』で紹介しきれなかった、ロシアの俳人への10時間以上にわたるインタビューと、かれらの俳句をまとめたものです。戦争の渦中に生きるロシア市民の率直な思いが、時に沈黙をはさみながら語られます」。
馬場朝子氏によると、日本の俳句は五、七、五の十七音だが、英語やロシア語では母音と子音を組み合わせた音節で五、七、五を数える(字余りがあり、季語がないこともある)。三行で書かれることも多く、「三行詩」とも呼ばれるという。「意外かもしれませんが、実はソ連時代から俳句は親しまれています。ソ連崩壊後はインターネットでも交流が進み、さまざまな俳句サークルも誕生し、俳句ブームが起きました。モスクワでは日本の国際交流基金主催の国際ロシア語俳句コンクールも開催され、本格的な俳人たちも育ってきました」。
なお、NHK ETV特集ではウクライナに暮らす7人の俳句とインタビューも放映しており、これらウクライナ人の俳句とインタビューもまとめ、書籍化する計画という。
[目次]
ナタリア 教会の鐘響くモスクワの町で
俳句は小さな器
戦争があっても続く「子ども時代」
戦争か平和か、トルストイの問い
何が起きているのか、知っている
自分をケアすること
カラスの沈黙の行方
俳句は私の大きな力
アレクセイ 情報戦の渦中で
アメリカで俳句と出会う
ニンニクが発する警告
痣で感じる戦争のリアル
情報戦争への対処法
クリミアで俳句を詠む
芭蕉と一茶の句の美しさ
ロシアの文化と日本の文化
俳句で瞬間を掴む
ニコライ 国境近くの町クラスノダールで
俳句が私を作ったのです
これは大きな痛みなのです
簡単な言葉が共存を生む
空港は閉鎖されています
生命線に貝を置く
より良い未来を信じたい
バレンチナ チェーホフの故郷の町で
俳句が私の第二の人生
科せられた制裁の下で
クリミアへの思い、ウクライナへの思い
核の脅威と文化のキャンセル
もうソ連には戻れない
オレク 古都コストロマの森で
不幸の予感はありました
ウクライナの大地に対して
この出来事の強い引力
分断がもたらす「前線」
言論統制下でのそれぞれの選択
戦勝記念日の夜に
核という脅威
翼があったら飛んでいく
兵士を見送る朝に
森に、孤独を探して
将来を楽観することはできない
イリーナ 北の湖沼の町で
生き延びるための俳句
あらゆる軍事活動は恐ろしいです
つらい気持ちを俳句に
小さい命が私のすべて
レフ 芸術の街サンクトペテルブルクで
ロシアと日本の共通感覚
広島と長崎を詠む
私たちは「瓶の魚」、安全ではありません
ユーラシア主義を期して
ベーラ 流氷を運ぶシベリアの町で
石川啄木との出会い
言葉から飛び散る火花
日常の窓から生まれる俳句
特別軍事作戦、その日のこと
いま、ロシアの俳人が感じていること
日本の俳人へのオマージュ
【馬場朝子氏の著書】『タルコフスキー 若き日、亡命、そして死』(青土社)、『低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ26年後の健康被害』(共著、NHK出版)、『ロシアのなかのソ連 さびしい大国、人と暮らしと戦争と』(現代書館)。
【馬場朝子氏が制作してきた主な番組】「ソビエト市民の静かな革命 ラトビア人民戦線 独立への息吹き」(ETV8)、「私は臆病者―プラハ侵攻に反対した赤の広場の8人」(ハイビジョンスペシャル)、「過ぎし時への悲歌―映画監督ソクーロフの世界」「スターリンの子供たち」「未完の大作アニメに挑む―映像詩人ノルシュテインの世界」「ロシア 歴史は繰り返すのか 亀山郁夫“帝国を読み解く”」「ウクライナ危機 市民たちの30年」(いずれもETV特集)など。
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