朝日新聞出版から11月30日に発刊された翻訳本『クレムリンの殺人者』は、ロシアのウラジミール・プーチン大統領について書かれた書籍では最も内容が深いと言って間違いない。秘密警察の工作員、サンクトペテルブルクの副市長、クレムリンの管財部、首相代行、首相、そして大統領としての恐怖政治を詳述している。著者は英国の調査報道ジャーナリストのジョン・スウィーニーで、オブザーバー紙や公共放送BBCを拠点に活動してきたという。
プーチンが大統領になってから関与が疑われる多くの毒殺事件、暗殺事件を取り上げているが大統領に就任するきっかけも疑惑に包まれているという。後継指名を受けたプーチンの「人気を一躍高めたきっかけとなったのが、9月にモスクワなどで相次いだアパートの連続爆破事件だ。2週間たらずの間に4件の爆破があり、計400人以上が犠牲となった。プーチン氏は一連の事件をチェチェンのテロリストの犯行と断定、当時事実上の独立状態にあったチェチェンに対する、大規模な侵攻に踏み切った」。監修者の朝日新聞駒木明義論説委員は、これが相次ぐテロに怯えていたロシア国民に支持され、次期大統領の座を動かないものにしたと解説している。
毒殺事件としては、その始まりとして2001年に元サンクトペテルブルク市長のサブチャークと2人のボディーガードの心臓発作をあげ、原因が毒薬だったと指摘。2006年には秘密警察の元キャリア職員でイギリスに亡命していたリトヴィネンコが突然死し、後で放射能物質ポロニウム210が使われたことが判明したが、スウィーニーはロシア国内でも使われているのではないかと調査。モスクワ刑務所に服役中だったチェチェン兵士、サンクトペテルブルグのギャングもリトヴィネントと同じような症状で突然死していたと記述している。また、イギリスに寝返ったロシア人スパイのスクリパリは娘と共に、2018年に神経剤ノビチェクで攻撃された。
2020年8月、「ナワリヌイはシベリアの町トムスクからモスクワへ向かう飛行機に乗っていた。トイレに行こうと席を立ったナワノヌイは、トイレに行く前に足からくずおれた。ナワリヌイは床に倒れ、甲高い悲鳴をあげた。それは苦悶に絶叫するナワリヌイの声であり、また同時に、私の思うところ、ロシアの民主主義が死んでいこうとする今際の声だった」。この後、スウィーニーによると三つの奇跡が続いてナワリヌイは生き延びた。検査の結果、毒薬はスクリパリ親子に使われたノビチェクだった。
こういったプーチンの恐怖政治の背景として、スウィーニーはカルフォルニア州立大学の精神医学教授に取材、破滅的なパーソナリティー障害、特にサイコパシー(精神病質)や自己愛性パーソナリティー障害に当てはまらないかどうか探っている。「プーチンにはサイコパスの兆候が複数認められるということだ。チックも見せずにペラペラ嘘をつく、恐れを知らずに優越感を抱く、非難を外在化する、幼い頃の生育事情が定かでない」。
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