2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、第二次世界大戦以降最大規模の戦争が始まった。国際世論の非難を浴びながらも、かたくなに「特別軍事作戦」を続けるプーチン、国内にとどまりNATO諸国の支援を受けて徹底抗戦を続けるゼレンシキー。そもそもこの戦争はなぜ始まり、戦場では一体何が起きているのか?
ちくま新書の12月新刊として、テレビメディアで活躍する軍事研究者の小泉悠(こいずみ・ゆう)の『ウクライナ戦争』が発刊された。同書は「21世紀最大規模の戦争はなぜ起こり、戦場では何が起きているのか?」、東京大学専任講師・小泉悠がその全貌を読み解こうとした書き下ろし論考。12月11日付朝日新聞には「刊行前重版&発売日即重版の大反響」という筑摩書房の広告が入るほど、年末シーズン最大と言える話題の新書となっている。
同書では、2021年1月-5月を軍事危機期間、21年6月-22年2月21日を開戦前夜期間として捉えてロシアの動き、ウクライナの動きを探ると共に、ロシアの軍事侵攻が始まってからの攻防を詳述している。また、ロシアの特別軍事作戦の軍事的な論考やプーチン大統領の主張の分析も行っている。開戦前の動きや軍事侵攻後の攻防など、マスコミに発表されていなかったことも数多く取り上げられているため、240ページ近くある本文も一気に読み進めることができる。最後の「この戦争の第一義的な責任はロシアにある。その動機は大陸間のパワーバランスに対する懸念であったかもしれないし、あるいはプーチンの民族的な野望であったかもしれないが、一方的な暴力の行使に及んだ側であることに変わりはない」という記述は納得できる。
ウクライナ戦争目次
〈第1章2021年の軍事的危機〉 1.バイデン政権成立後の米露関係=集結するロシア軍/あっけない幕切れ/トランプ退場に神経を尖らせるロシア/牽制は効いたか?/ウクライナ・ゲート/ナヴァリヌィ・ファクター 2.ゼレンシキー政権との関係=メディアンvsスパイ/シュタインマイヤー方式をめぐって/窮地に立たされるゼレンシキー/メドヴェチュークの政界復帰/ゼレンシキーの焦り
〈第2章開戦前夜〉 1.終わり、そして続き=ロシア軍の再集結/高まる緊張/米国の「情報攻勢」とロシアの「外交攻勢」 2.プーチンの野望=グラデーション状の勢力圏/「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」/歴史、主権、「パートナーシップ」/プーチン論文をどう読むか 3.整った侵攻準備=公開情報が暴くロシア軍の動き/ベラルーシが前線基地に/非核と中立も放棄 4.プーチンのジェットコースター=迷う二人の筆者/プーチンの「ハラショー」/「虐殺」発言と膨れあがるロシア軍/針の筵に座らされるラヴロフ/パワハラ会議
〈第3章「特別軍事作戦」〉 1.失敗した短期決戦の目論見=斬首作戦/ロシアが張り巡らせた秘密ネットワーク/「特別軍事作戦」とは何なのか/逃げ出す内通者たち/高慢と偏見/「死ななかった」ゼレンシキー 2.ウクライナの抵抗=持ち堪えるウクライナ軍/「聖ジャヴェリン」の加護の下で/ウクライナの「三位一体」/全力を出せないロシア軍 3.撤退と停戦=ロシア軍のキーウ撤退/会議は踊る/西側の大規模軍事援助/振り出しに戻った停戦交渉/ブチャ 4.東部をめぐる攻防=ロシアによる核の威嚇/「武器が足りない!」/マリウポリの陥落とルハンシクの完全制圧/ロシア軍の成功要因
〈第4章転機を迎える第二次ロシア・ウクライナ戦争〉 1.綻びるロシアの戦争指導=軍への不信を強めるプーチン/将軍たちの失脚/情報機関との軋轢 2.ウクライナの巻き返し=HIMARSがもたらしたロシアの攻勢限界/ウクライナが与えられるものと与えられないもの/主導権はついにウクライナへ 3.動員をめぐって=「我々はまだ何一つ本気を出していない」/プーチンの「ヴァイ……」/ロシアの動員態勢/総動員は本当にできるのか/それでも総動員を発令できないプーチン/部分動員へ 4.核使用の可能性=核兵器の使用という賭け/エスカレーション抑止は機能するか/核のメッセージング/効かなかった非核エスカレーション抑止
〈第5章この戦争をどう理解するか〉 1.新しい戦争?=テクノロジーが変えるもの、変えないもの/ Enabler とEnabled /ハイブリッド戦争 ―「戦場の外部」をめぐる戦い/ロシアの「ハイブリッドな戦争」とウクライナの「ハイブリッド戦争」 2.ロシアの軍事理論から見た今次戦争=「新型戦争」/「新世代戦争」/プーチン少年の破れた夢/限定全体戦争? 3.プーチンの主張を検証する=ウクライナは「ネオナチ国家」か/根拠の薄い大量破壊兵器開発説/ロシアはなぜ北欧を攻撃しないのか/プーチンの野望説とその限界
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