ノーベル賞作家のソルジェニーツィンはソ連政府を批判、政治犯として流刑となり国外追放されたが、帝政ロシアを讃えるその思想は、ロシアのプーチン大統領に重なるものがある。特に1990年に発表した論文『甦れ、わがロシアよ』では、同じスラブ民族であるロシア人とウクライナ人の一体性を強調した。ソルジェニーツィンはソ連解体後にロシアに帰国したが、プーチン大統領は2000年に大統領に就任するとすぐにソルジェニーツィン宅を訪問したという。
論文『甦れ、わがロシアよ』は、日本語訳の解説文によると1990年9月18日付「共産青年同盟機関紙」と19日付「文学新聞」の付録として発表されたもので、両紙合わせた発行部数は2650万部。日本語訳の単行本は1990年12月に定価1000円で日本放送出版協会から発刊された。新刊書案内では「ソ連は速やかに解体し、全ての局面で根源的改革を。衝撃的発言の全訳」とPRしている。現在、この日本語訳の単行本は絶版で、アマゾンでは送料込みの価格が9000円以上となっている。あまりにも高額なので、ヤフーオークションに2500円(送料込み)で出品されていた表紙カバーなしの裸本を購入した。
論文の中で「私自身、半分近くはウクライナ人であり、子どもの頃はウクライナ語の響きのなかで育った」として、白ロシア人にも触れてウクライナ人について次のように書いている。「わが民族が三つに枝分かれしたのは、あの蒙古襲来というおそろしい災難のためと、ポーランドの植民地になったためである。ロシア語と違う別の言葉を話していたウクライナ民族がすでに九世紀から存在していたという説は、最近になってつくられたまっ赤な嘘である。われわれ全員があの高貴なキエフ・ロシアから出ているのであり、ネストルの年代記によれば、そこからロシアの土地がはじまり、そこからキリスト教の光が差しこんできたのである。同じ公たちがわれわれを統治してきたのである」。
9月30日付の週刊エコノミストOnlineで、札幌大学岩本和久教授は「帝政ロシアをたたえるソルジェニーツィンの思想をなぞるかのように、プーチン大統領は国家を統治してきた。ロシアのウクライナ侵攻もまた、ソルジェニーツィンの支持する大ロシア主義と重なるものだ」と指摘。「『甦れ、わがロシアよ』の中でソルジェニーツィンはロシア人とウクライナ人の一体性を強調し、地元住民の要請にしたがってウクライナの一部の州がロシアに併合される可能性を示唆する。ウクライナ東部の分離やクリミアの併合を予言するかのように」、「ウクライナとロシアの一体性という発想は、プーチン大統領によって新しく作られたものではない。それらは30年前のソ連解体期から用意されていたのだ。そのような民族主義的・愛国的な思想をプーチン大統領が改めて採用したのである」と書いている。
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