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岩波文庫から『シェフチェンコ詩集』

 

 ウクライナの国民的詩人と呼ばれるタラス・シェフチェンコの詩10篇を集めた『シェフチェンコ詩集』が10月14日、岩波文庫から発刊された。シェフチェンコは1843年から45年までの3年間に執筆した22篇の詩を手稿集『三年』に収録しているが、今回の詩集はこの手稿集から10篇を選んで訳出されたもの。編訳者は2018年に『シェフチェンコ詩集 コブザール』の訳を行い、群像社から出版した藤井悦子氏。定価858円。

 手稿集『三年』は10年間の流刑を背負う原因となった作品集であり、生前はもちろん死後も長い間出版は許可されなかったという。文庫カバーの表紙では、「静けさにみちた世界 愛するふるさと/わたしのウクライナよ。/母よ、あなたはなぜ/破壊され、滅びゆくのか。」と詩『暴かれた墳墓』の冒頭部を紹介、「理不尽な民族的な抑圧への怒りと嘆きをうたい--。帝国ロシアに対する痛烈な批判、同郷人への訴え、弱者に寄せる限りない慈しみが胸にせまる」と書いている。まさに現在のロシアの理不尽な軍事侵攻に対するウクライナ国民と怒りと嘆きに通じるものがある。

 解説によると、キーウ大公国が13世紀に解体したあと、荒野と化していたウクライナの地にコサックが住み着き、自衛のための軍隊を組織した。この武装集団が自覚的な民族集団へと変貌、正教の教育機関が設立されてキーウが地域の一大文化センターとなった。しかし、コサックは国家として独立していなかったため、ポーランドに軍事力を提供していた。ポーランド支配が厳しくなったことに反発、当時のコサックの首領フメリニツキィの指揮のもと、1648年に対ポーランド戦争が始まった。苦戦を強いられる中で1654年にロシアとの間に保護条約を結び、ロシアの庇護下に入った。それから13年後にロシアはポーランドと条約を結び、ドニプロ右岸はポーランド、左岸はロシアと主権を相互に認め合い、ウクライナの独立は失われた。

 ウクライナの苦難の歴史がフメリニツキィの愚かな選択に始まったというシェフチェンコの批判は、詩『暴かれた墳墓』から始まったという。この詩ではウクライナを売り渡したフメリニツキィ、ウクライナを支配するロシア人、そのロシア人を助ける愚かなウクライナ人の息子、この3者をウクライナを抑圧する者としてあげている。詩『無題(チヒリンよ、チヒリンよ)』でもウクライナコサックの過去の栄光と現在の悲惨な状況を対比、フメリニツキィの居城があり、その後も数代の首長が屋敷を構えたチヒリンを歌っている。さらに長編詩『偉大なる地下納骨堂』では、ロシア人の手で発掘されるフメリニツキィの納骨堂を題材にしている。

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