たまたま書店に置いてあった「新潮クレスト・ブックス2022-2023」のリーフレットをもらって見ていたら、「今こそ読みたい、ウクライナとロシアの本」というページがあった。そのページにウクライナ・キーフ在住のロシア語作家、アンドレイ・クルコフの『ペンギンの憂鬱』が紹介されていた。棚に並んでいる同書を手に取ると、「欧米各国で絶大なる賞賛と人気を得た長編小説。憂鬱症のペンギンと暮らす憂し短編小説家」という帯が巻かれており、全く馴染みのないウクライナ文学に惹かれて購入、早速読んでみた。
リーフレットによる小説のストーリーは、「舞台はソ連崩壊後のキーフ(キエフ)。売れない小説家のヴィクトルは、動物園から引き取った憂鬱症のペンギン、ミーシャと暮らす。ある日、新聞社から依頼されたのは、まだ生きている大物たちの追悼記事を書く仕事。ところが、書かれた人物は次々と奇妙な死を遂げてゆく⏤」。この解説通りのカフカ的物語が小ばなしを集めたようなスタイルで淡々と綴られているが、ペンギンと一緒に暮らすという物語の基調が非常に秀逸だ。解説を読むと飼っているペンギンを見せて欲しいという記者が現れるほど、その同居生活はリアリティが感じられる。
作家のアンドレイ・クルコフはレニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれで、3歳の時に一家でキーフに移住して現在まで同地で暮らしているという。ロシア語で作家活動をしているため、作品の帯には「新ロシア文学」の文字が記されているが、自分では「ロシア語で書くウクライナの作家」と評している。ただし、ウクライナの民族主義が高揚すると共に、非ウクライナ語作家の立場は厳しくなりつつあるようだ。1991年8月にウクライナは独立しているので、1996年に出版したペンギンの憂鬱は独立直後の混沌としたキーフを背景にしている。
絶版だがAmazonに高額の中古本は出品 |
新潮クレスト・ブックスの日本語訳は2004年9月に出版されたが、2006年8月に同じ新潮クレスト・ブックスで『大統領の最後の恋』が発刊された。帯には「ウクライナ大統領まで昇り詰めた男の愛の遍歴」と記載されているが、売れ行きが芳しくなかったためか今は絶版となっている。そして、Amazonで販売されている中古本を見ると、最も安いのが12000円となっている。復刊ドットコムには「私の住む街では図書館にも置いていないので是非復刊していただきたい」という投稿が載っている。
また、アンドレイ・クルコフの著書としては『ウクライナ日記』も2015年7月に集英社(オーム社発行)から発刊された。こちらの著書は、2013年から14年にかけてウクライナで起きた市民デモ「マイダン革命」の激動の日々を書き留めたドキュメント。
コメント
コメントを投稿